何か面白いことはないかなあとキョロキョロしていれば、それにふさわしい突飛で残酷な事件が、いくらでも現実にうまれてくる、いまはそんな時代だが、その中で自分さえ安全地帯にいて、見物の側に廻ることが出来たら、どんな痛ましい光景でも喜んで眺めようという、それがお化けの正体なんだ。


ぼくのいってるのは、世間ふつうの意味での殺人じゃない。氷沼家のおびただしい死人たちが、無意味な死をとげたと考えるよりは、まだしも血みどろな殺人で死んだと考えたほうがましだということだ。


こうやって、一日じゅう、わざと時計を逆しまにはめておくんです。見るたびにオヤと思ってね、勝手に過ぎちまう時間という奴を邪魔するみたいだし、そんな簡単なことで何かこう、異次元のワンダランドにでも入ってゆけそうな気がして面白いですよ。やってごらんなさい。


考えてくれ、今の時代で、気違い病院の鉄格子のどちらが内か外か。何が悪で、何が人間らしい善といえるのか。


作中人物の、誰でもいいけど、一人がいきなり、くるりとふり返って、ページの外の”読者”に向って”あなたが犯人だ”って指さす、そんな小説にしたいの。


ちょっと、どういうつもりなの。この小説……


虚無への供物、面白いのに、

残念ながら、殆ど知られていない作品です。

アンチ・ミステリーという作品です。

推理小説でありながら、推理小説であることを拒む。

登場人物達が、あれやこれやと推理していく。

それが全くとんでもない方向に進んでいく。


夢野久作の『ドグラ・マグラ』、

小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、

中井英夫の『虚無への供物』は、

日本の三大奇書と言われています。

上記二つは、青空文庫で読むことが出来ます。