待てど暮らせど来ぬ人を

宵待草のやるせなさ
今宵は月も出ぬさうな


こはわが少年の日のいとしき小唄なり。
いまは過ぎし日のおさなきどちにこのひとまきをおくらむ。
お花よ、お蝶よ、お駒よ、小春よ。太郎よ、次郎よ、草之助よ。げに御身たちはわがつたなき草笛の最初のききてなりき。


どんなにおなかがひもぢうても
日本の子供はなきませぬ。
ないてゐるのは涙です。


ありのすさびに
花をつみてつがねたれど
おくらむひともなければ
こころいとしづかなり。
されどなほすてもかねつつ
ゆふべの鐘をかぞへぬ。


ふたりはかきぬ。
「しらぬこと」

ふたりはかきぬ。
「よろこび」と

ふたりはかきぬ。
「さよなら」と。


一体世の中に、何故? ときかれて、何となればと答の出来る様なことは、ごくつまらない事に違ひない。


いつか忘れてゐた言葉
あなたが拾つてもつてゐた
いくねんまへの
春だつた


ひもじいと言つては人間の恥でせうか。
垣根に添うた 小徑をゆきかへる私は
決して惡漢のたぐひではありません
よその厨からもれる味噌汁の匂が戀しいのです。


いい年をしてホームシツクでもありますまい。
だが、泥棒でさへどうかすると故郷を見にゆきます。
生れた故郷が戀しいからではありません
人生があまりに寂しいからです。