雨音のかむさりにけり虫の宿

狐火の減る火ばかりとなりにけり

赤く見え青くも見ゆる枯木かな

柄を立てゝ吹飛んでくる団扇かな

藪の空ゆく許りなり宿の月

ものゝ芽のほぐれほぐるゝ朝寝かな

チチポポと鼓打たうよ花月夜

春月の病めるが如く黄なるかな

西行忌我に出家の心なし

散らばりし筆紙の中の桜餅

恋猫やからくれなゐの紐をひき

京言葉大阪言葉濃白酒

いま一つ椿落ちなば立去ん

菜の花の月夜の風のなつかしき

菜の花が汽車の天井に映りけり

紫苑の芽暗く甘草の芽明るし

花深く煤の沈める牡丹かな

向日葵に剣の如きレールかな

藪の空ゆくばかりなり宿の月

海中に都ありとぞ鯖火燃ゆ

島人の墓並びをり十三夜

やり過ごす紅葉の茶屋の一時雨

水仙や古鏡のごとく花をかゝぐ

雲霧の何時も遊べる紅葉かな

橙に天照る日ある避寒かな

コスモスの夕やさしくものがたり

今日となり明日となりゆく石蕗の花

ゆるやかに落葉降る日を愛でにけり

とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな

夢に舞ふ能美しや冬籠

朝々の独り焚火や冬たのし

日を追うて歩む月あり冬の空

雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと

日もすがら落葉を焚きて自愛かな