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日野草城伝 [ 伊丹啓子 ]
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日野草城、エッチな俳句で知られる俳人です。

発表した当時は、当時の俳壇から、非難があったのです。

今では、全く話題にならないのね。


薔薇匂ふはじめての夜のしらみつつ

けふよりの妻と泊るや宵の春

春の宵なほをとめなる妻と居り

湯あがりの素顔したしく春の昼

枕邊の春の灯は妻が消しぬ

うららかな朝の焼麺麭はづかしく

春の灯や女は持たぬのどぼとけ

春暁やひとこそ知らね樹々の雨

明るみて月夜となりぬ春の海

生きてゐることのよろしき春の雪

ぽんかんのあまあまと春立ちにけり

ゆく春やうつらうつらと昼餉のあと

ところてん煙の如く沈み居り

月さすや金魚居らざる金魚鉢

山茶花やいくさに敗れたる国の

あをあをと夕空澄みて残暑かな

満月の照りまさりつつ花の上

高きよりひらひら月の落葉かな

寂しさに葡萄を握る月夜かな

十六夜の月が出にけり照らさるる

湯豆腐に松竹梅を惜まざる

寒の闇煩悩とろりとろりと燃ゆ

われ咳す故に我あり夜半の雪

冬の月寂寞として高きかな

猫去つて猫の子二つ残りけり

大晦日ねむたくなればねむりけり

除夜の鐘もうすぐに鳴るとき寝落つ

かへりみて長かりき長からざりき