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山家集 (角川ソフィア文庫) [ 西行 ]
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この世にてながめられぬる月なれば迷はん人間も照らさざらめや


ゆくへなく月に心のすみすみて果はいかにかならんとすらん


白河の関屋を月のもるかげは人の心をとむるなりけり


忘られんことばをかねて思ひにき何おどろかす涙なるらん


いつよりか紅葉の色は染むべきと時雨にくもる空にとはばや


朽ちもせぬその名ばかりをとどめ置きて枯れ野のすすき形見にぞ見る


風になびく富士の煙の空に消えて行方も知らぬわが思ひかな


あかつきのあらしにたぐふ鐘の音を心の底にこたへてぞ聞く


深く入りて神道の奥をたづぬればまた上もなき松風


陸奥のおくゆかしくぞおもほゆる壷の碑外の浜風


道のべの清水流るる柳陰しばしとでこそ立ち止まりつれ


あはれあはれ此の世はよしやさもあらばあれ来む世もかくや苦しかるべき


天の川名に流れたるかひありて今宵の月はことに澄みけり


君が代は天つ空なる星なれや数も知られぬ心地のみして


嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな


嘆きあまり筆のすさみに尽くせども思ふばかりは書かれざりけり


春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり


現をも現とさらに思へねば夢をも夢となにか思はん


逢ふと見しその夜の夢の覚めであれな長き眠は憂かるべけれど


願はくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃


いつかわれ昔の人と言はるべき重なる年を送り迎へて


仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば